前回の続き↓
僕はインドの道端で、日本人のおばちゃんに話しかけられた。
「私は、子供が一人立ちしたからインドに来たの!」
と、その日本人のおばちゃんは言った。
「今まで、一人娘の世話が大変で、、」
「自分の時間なんかなかった!」
「毎日、働いて。娘を大学に行かせて、その娘が社会人になったから。これからアジアを一人で回ってみようと思っているんだ。」
「前回は韓国に一人で行って、今回のインドが2回目。次はタイとかに行きたいな。英語は全然話せないけどね。」
冬眠明けのクマみたいに、そのおばちゃんは話し続けた。まぁ、クマがおしゃべりかどうかは知らないけどね。
僕は、そのままこのおばちゃんが話しながら呼吸困難になってしまわないか、すごく心配だった。
僕は、、
「旦那さんはどうしてるんですか?」って聞こうと思ったけど、
言葉が喉元まで出掛かって聞くのをやめた。
とにかく、僕とおばちゃんと、マッチョのお兄さんの3人でおばちゃんのために宿を探すことになった。
人のために、宿を探すのは自分自身のために探すのよりも難しいと思う。まずはおばちゃんのニーズを把握しなきゃいけないし、それを宿屋の店主に伝えて交渉しないといけないから、
特におばちゃんの要望が高すぎるってわけではないけれど、「ただ寝れれば良い」とは言っているけど、僕自身がそれだけでは満足できなかった。
なるべく綺麗で、なるべく安くて、英語が話せない人にも差別しない店主で、できたら話しやすそうな日本人か欧米人のルームメイトがいて、
安心できるような宿を探したかった。
けれど、ダメだった。
そもそも、安い所は汚い、綺麗なところは高い。
この、何千年も続く
太陽は東から登って西に沈むくらい圧倒的な、自然の摂理の前では僕たちはあまりにも無力だった。
かろうじて、かなり綺麗で店主もいい人で、欧米人と日本人の女の子が常宿としている場所を見つけたけど、価格がかなり高かった。あ200ルピー、いや100ルピー安ければ適正だろうけど、
外国人の観光客で引く手あまたなんだろう。
こんな強情で意地っ張りで、価格交渉に応じない店主は初めてみた。僕が英語で何回か交渉してみたけど、ついに店主が値下げ交渉時に首を縦に振ることはなかった。
何よりも、耳障りだったのは、
インド人の巻き舌の発音でもなく、自分のRの発音でもない。
僕の後ろでチャチャを入れるマッチョ野郎の声だった。
ずっと無言で、、僕とおばちゃんの後をついてくるやつ。
そのマッチョ野郎の英語力は中学1年の夏くらいだった。
そのマッチョ野郎が、僕と店主の交渉中にずっと
「No Way ! (まさかっ!)」て叫んでいた。
もう、狂ってたね。
壊れた機械みたいに、「まさかっ!」って叫ぶんだからさ。
金額はいくらですか900ルピーです。
「No Way ! (まさかっ!)」
って叫ぶんだからさ。
しまいには、誰かが「おはよう。」って言っても。「No Way」と叫ぶはずだよ。
なんか自分でもできる、役が欲しかったんだろうな。けれど残念だけどお前ができる役はないのさ。
すると、
ずーー〜っと黙ってた
おばちゃんが口を開いた。
「モンキーキックくんありがとう。ここは私に任せて。」
えっ?でも、、おばちゃん。
あなたは英語が不得手なのでは??
すると、おばちゃんは日本語で叫んだ。
「おねが〜い」
「おねが〜い」
「おねがいだから、安くして!!」
絵本の太陽みたいな笑顔で、
ヨガみたいに手と体をくねらせながら日本語を発した。
すると、、
すこし、重くなっていた。空気が、わっと明るくなって。
その凛とした音が空間を切り裂いた。
そして、、なぜだか、
宿の値段が値引きされた。
なぜだかインド人店主も笑顔だった。
僕も、、マッチョ野郎も、外にいる牛も、机のはしに置かれていた花瓶も、
ここにある全てのものが笑っているような気がした。
「モンキーキックくん、値引き交渉ありがとうね。」とおばちゃんが僕に言った。
「いや、、僕は何もしていません。」と僕は答えた。本当に僕は何もしなかった。
「いや、モンキーキック君のおかげだよ。」とおばちゃんは言った。
その後、宿屋の手続きが済んで、
いよいよ、、この短いような長いようなこの3人での活動を解散することになった。
僕と、おばちゃんと、マッチョ野郎の3人で、宿屋の前で1枚の写真を撮った。
3人とも、まるで幼馴染がキャンプか海に行った時のような顔をしていた。
僕は、その写真を自分の部屋のベッドで何回か見返した。
明日は、汽車に乗って古都アグラに向かう。
期待で胸がいっぱいだった。
つづく。。。