閉店恐怖症
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変わった友人がいる。
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「閉店のお知らせ」
平素より当店をご利用いただきまして、ありがとうございます。
この度、当店は○月○日(○曜日)を
もって閉店することとなりました。
お客様には大変ご迷惑をおかけして申し訳ございません。これまで当店をご愛顧いただき、誠にありがとうございました。
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この文章を見ると、自分の体の一部を失ったような気持ちになるらしい。
自分がよく行っていた店ならまだしも、職場とか家の近くの1回も行ったことがないお店に対しても、そんな気持ちになる。
だから閉店の張り紙を見るのが辛い。
最近「閉店します」というお店に1人で行った。初めて入るお店で「ラ・カフェ」という名前だった。
店内はガランと片付けられていて、客は自分1人だけ。店員さんのオペレーションは手際が悪く、ハンバーグ定食は15分たっても出てこない。
やっと出てきたと思ったハンバーグ定食は、ソースが甘すぎる気がしたけれど、不味くはなかった。
どこか懐かしいその味と、年季の入った茶色い木の壁、食後の無料ホットコーヒーが作る空間は居心地がよかった。
コーヒーカップの底を、2分間ボーッと眺めてからレジへと向かう。
店員さんがお会計の際にこう言った。
「またお越しください。」
「あぁ、また来ますとも。」と彼は答えた。
せっかく見つけた場所も次行くときにはもう存在しない。というか全ての店がいつかは閉店するのだろう。
夜の帳がおりる。向かいの八百屋の二階の部屋に明かりが灯る。「ラ・カフェ」の痩せた店主が自転車にまたがり家路につく。
明日きっと雨が降る。
彼はクローズショップフォビアだ。