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【笑い男】J・Dサリンジャーの短編小説の「あらすじ」と「解説」

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笑い男」(The Laughing Man)はJ・Dサリンジャーの短編小説。1949年3月19日に雑誌「the New Yorker」で発表された。サリンジャーの短編集「ナイン・ストーリーズ」(1953年発行)に4番目の作品として収録されている。

 

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この話には「ただの子供時代の思い出話」とか「先住民と白人の対立の暗喩」とか色々な考察がある。

 

 

まずは、あらすじと結末を整理して、そこから考察をしてみる。

 

あらすじとネタバレ  

 

1928年、9才の「僕」(名前は明かされていない)は、ニューヨーク市のスポーツクラブ「コマンチズ」に所属していた。そこには僕を含めて25名前後の子供がいた。放課後に野球、アメフト、休みの日には野外キャンプなどを楽しんだり、雨の日には美術館や博物館を楽しむクラブであった。

 

 

 

そのクラブのコーチ(管理者)のジョン・ゲザツキーは子供達からチーフというあだ名で呼ばれていた。ニューヨーク大学で法律を学ぶ将来有望な人物で、アメフトや野球のドラフトに指名されかけたり、ボーイスカウトのランクも最高ランクのイーグルスカウトであった。性格は少し内気な性格だった。

 

 

 

「チーフ」は「僕」がキャンプで迷子になった時も助けてくれたり、焚き火の起こし方も一級品、スポーツの審判でも冷静沈着で、小さな悪ガキにも大きな悪ガキにも誰からも愛されていた。

 

 

 

見た目は、身長が160cmくらいで、鼻が大きくずんぐりむっくりしていた。彼には物語を語る才能もあって、子供達を送り迎えしてくれるバスの中で話してくれる話が「笑い男」という名前の話であった。

 

 

 

子供達は、その「笑い男」の話が大好きだった。「笑い男」は両親が宣教師である関係で中国に住んでいたが、ある日、山賊に誘拐されて顔に傷を負わされた。顔に穴を開けられてしまい、笑うと特殊な音が出るからその男は「笑い男」と呼ばれるようになった。その男は顔を見た人が気絶するほど醜い姿だった。

 

 

 

笑い男」はその顔をケシの花びらで隠しながら、なぜか山賊と一緒に暮らすようになった。犯罪に手を染めるようになったが、弱いものを助ける義賊のような行動で、世間からは愛されていた。

 

 

 

すると、山賊は「笑い男」が世間から人気のあることに嫉妬して、今まで一緒に暮らしていた「笑い男」を殺そうとした。

 

 

笑い男」はそのことを見破り、山賊達を殺そうとはせずに、山賊達の元を離れて、小人や狼たちと暮らすようになった。「笑い男」は動物の言葉がわかるのであった。「笑い男」はその後フランスなどでも盗みを行い大金持ちになった。しかしフランスの探偵に命を狙われるようになった。

 

 

・・・ ここまでの話を、「チーフ」から聞くのに、2ヶ月かかった。子供達は運動おわりにバスでこの話を聞くのが待ちきれなかった。

 

 

そんな中、ある日「メアリー・ハドソン」という女性がスポーツクラブに参加するようになった。どうやら「チーフ」の彼女らしい。「メアリー・ハドソン」は僕が今までみた中でも屈指の美人であった。「チーフ」は「メアリー・ハドソン」がバスに乗り込むときは少しオシャレをしたり、どこか緊張しているようだった。

 

 

「メアリーハドソン」は、少年たちとチーフの反対を押し切り、野球の試合に出たり、キャッチャーミットで外野を守ったりと、天真爛漫な女性だった。参加した試合で彼女は大活躍し、子供達の信頼を勝ち取りチームに溶けこんでいった。それを見て「チーフ」も幸せそうだった。

 

 

しかし、彼女はある日グラウンドに来なくなった。1度、乳母車を引いた女性達と一緒にグラウンドに来た時、なにやら「チーフ」と話をしていた。

 

 

「メアリーハドソンは」グラウンドの三塁ベース付近で泣いていた。チーフは彼女のコートの裾を握っていたけれど、「メアリーハドソン」はチーフの腕を振り切ってどこかに走って行った。

 

 

「僕」は「チーフ」に「メアリーハドソン」と喧嘩したのかと聞くと、チーフは「シャツをちゃんと中に入れろ」と言った。「僕」は「メアリーハドソン」がこのチームに永久に戻ることがないことを悟った。

 

 

その後、チーフは動揺しているようだった。チーフは「僕」たちに「笑い男」の続きを話した。笑い男はフランスの探偵に「仲間の狼」を人質にとられて罠にはめられていた。

 

 

「仲間の狼」を救おうと「笑い男」は身代わりになったが、捕らえられていた狼は「偽物の狼」だった。「笑い男」はフランスの探偵に銃弾を食い傷ついたが、その銃弾を体内で跳ね返しフランスの探偵をやっつけることに成功した。(「僕」はここで物語が終わっても良いと思った。)

 

 

しかし、「笑い男」は木に縛られていたままだった。そして動けないまま、なんとか森の動物たちに助けを求めて仲間の小人を呼んでもらった。何日も木に縛られていて喉が乾くし、傷だらけで死にそうだった。

 

 

小人が「笑い男」を助けようと飲み物を渡した。「笑い男」は「仲間の狼」の無事を小人に尋ねた。小人は「仲間の狼」は既にフランスの探偵に殺されていることを「笑い男」に伝えた。すると「笑い男」は小人の飲み物を握りつぶし、今まで仲間にも見せなかった醜い顔を隠すケシの花のマスクを外し、その場で息たえた。

 

 

物語はそこで終わった。チーフは話終えるとバスを出発させた。最年少のチームメイトがわっと泣き出した。「僕」も膝が震えていた。

 

 

何分かして、「僕」がバスを降りたとき街灯の下に吹きつけられた赤い色のティッシュペーパーが、誰かのケシの花のマスクのように見えた。その日家に帰った「僕」は母親にすぐ寝なさいと言われた。

 

 

完 

 

 

考察

 

まず、「チーフ」と呼ばれるジョンは「先住民(ファーストネイション)」であるという見解がある。そこからメアリーやフランスの探偵との出会いや関わりが、アメリカの歴史を表していると考えるらしい。これはジョンの身体的特徴や、「コマンチ」や「チーフ」という単語が先住民由来の単語からきてるらしい。

 

 

けれど、私はこれに反対意見を投じていきたい。ジョン・ゲザツキーという名前や、子供たちが「チーフ」を1920年代の俳優Tom mixに似ている節があるという点から、ジョンはヨーロッパ系と考えても良いのではないか?

 

 

ヨーロッパ系アメリカ人が「チーフ」などと先住民の言葉を使うことはよくあるからだ。「トマホークス」や「インディアンス」とかいう名前ってスポーツチームに結構あるでしょう?(今、改名問題で話題になっていますが)

 

 

とくに、先住民との対立との解釈を入れなくてもこの作品は十分面白い。(対立があったと考えても、それはそれで面白いと思うけど)

 

  

次にストーリーをみてみると、「僕」が子供の頃の「チーフとの思い出」を想い出す話だ。「チーフ」がおそらく彼女と別れる、するとチーフが話していた「笑い男」のストーリーがバッドエンドで終わるという流れ。

 

 

けれど、なぜ「僕」はこの思い出を想い出したのだろう。「チーフ」と今でも繋がりがあれば1人でこのような思い出をふと考える可能性は低いと思う。もしかしたらチーフは既に亡くなっている可能性があるのではないか?

 

 

怖いのは、ナインストーリーズの他の話で、登場人物が突然自殺してしまった話があることだ。このことから「チーフ」が美人の彼女と別れることになって、ショックで「自分が作った物語」をバッドエンドにした。そして自分自身も自ら命を絶ってしまったというものだ。

 

 

笑い男」は「チーフ」を暗喩していて、「子供達」が「小人」だという考えることもできる。「小人」では「チーフ」を救えなかったという考えになる。じゃあ狼は誰だ!?キャッチャーインザライでもそうだけれど、子供や若い学生というのは、大人よりも純粋で繊細なことが多い。

 

 

確かドストエフスキーも何かの作品で「若者は悲劇的な死をのぞむ」的なことを言っていたような気がする。

 

 

さらに深読みすると、「僕」も今現在、窮地に立たせれていて、チーフのことを思い出したという見方もできるのではないか?「まるでキャンプの時に迷子になった時」のように、その時はチーフが助けてくれた。けれどチーフはもういない。

 

 

1949年にこの話が雑誌に発表されて、1928年の「僕」が9歳なので、「僕」は現在30歳前後と考えるのはどうだろう?30歳前後って大人と子供の中間で、(青年とオジサンの中間?)色々ありそうな年頃な気がする。

 

 

けれどまぁ、それだとあまりに悲しすぎる話になってしまう。

 

 

個人的には、子供の頃に憧れていた先輩がいたけれど「今は何をしているのかな?」というような内容だと思いたい。子供の頃は恋愛とかよくわからなかったけれど「今考えると、こういうことだな」的な話であってほしい。

 

 

読書って別に間違った解釈をしても良いと思う。テストではないから。人それぞれの解釈が面白い。

 

 

みなさんはどう思いますか?

 

 

おわり!

 

 

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